コラム

Column

お宝だった皮下脂肪 ~再生医療の魅力とこれからの未来~

Author :東京Dタワーホスピタル 再生医療 岩畔英樹

皆さま「再生医療」という言葉はご存じですか?

怪我や病気で損傷を受けた部分を自分の細胞(時に他人の細胞)で修復する最先端の医療です。2006年に京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学生理学賞を受賞されて以来、この分野に対する研究や治療が全世界で活発に進められています。

そしてこの治療のキープレイヤーとなる細胞を「幹細胞」と言い、本編ではこの「幹細胞」について分かりやすく解説するとともに、今後広がっている可能性について考えてみます。


幹細胞とは?

大きく分けて2つのグループに分かれます。(図1)

① 胚性幹細胞(ES細胞)やiPS細胞

非常に高機能を有する細胞集団で、今後の研究に大変期待できる細胞です。ただし現時点で実用化に向けた問題点があります。

● 癌化するリスクを含めた「安全性問題

● 自分の細胞より他人の細胞を使用する確率の高い「倫理的問題

● 治療に必要な細胞を作製するために必要となる「経済的問題

② 体性幹細胞

すでに我々の身体の中に存在している細胞集団で、現在多くの施設で実臨床に向けた研究が行われています。

【この細胞の特徴】

(1) 身体のあらゆる部分に存在する(血液、骨髄、皮膚、さい帯、歯髄、皮下脂肪、月経血など)

(2) 国内外で臨床研究の実績は証明されつつある(論文や学会発表などで)

(3) 自分の細胞を使えるメリットがある

(4) どなたでも自費で治療を受けることができる(一部保険適応もあります)


皮下脂肪由来の再生(幹)細胞について

2001年に当時米国UCLA大学(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)形成外科の准教授であったヘドリック医師らが、痩身目的(痩せるため)に美容吸引術を受けられた患者さんの皮下脂肪を医療廃棄物として廃棄されている現場を目撃し、「これはもったいない! 何か活用出来る方法があるのではないか?」と廃棄処理される前の皮下脂肪を解析しました。すると、皮下脂肪の中に極めて幹細胞に似た細胞集団発見し、世界で初めて単離・同定に成功しました。それ以降、この細胞に関する研究が一気に加速しました。

その後更なる研究により、この皮下脂肪組織由来の再生(幹)細胞(Adipose-derived Regenerative Cells:ADRCs)は、性質・機能の面で骨髄由来の間葉系幹細胞(Bone marrow-derived mesenchymal stem cells:BM-MSCs)に非常に良く似ていることが分かり、研究者たちを大いに驚かせました。

このADRCsの最大の特徴は、皮下脂肪組織から採取される幹細胞が同程度の骨髄液から採取される幹細胞の1000倍以上多く含まれているという点であります。つまり、まさに「皮下脂肪はお宝の山」だったという事です。

ただし、「内臓脂肪」は全く逆に身体に害しかありません。「皮下脂肪」と「内臓脂肪」は別物というわけです。(図2)(図3)


この細胞を用いた臨床応用の一例(整形外科領域)

この数年間に「再生医療」という新しい医療が世界的に広がりつつある中で、トッププロスポーツ選手の中にも本治療を取り入れる選手も増えて来ています。

スポーツ選手の怪我の原因は様々で、競技内容によっても多種多様ですが、一時期に大きな力が加わることで起こる「スポーツ外傷」と、特定の部分の使い過ぎでその部分に疲労が蓄積し、それがもとで炎症や機能低下等が発生する「スポーツ障害」が挙げられます。さらに、小さな痛みに耐えて無理なトレーニングを続けた結果、靭帯や関節・筋肉を損傷したり、蓄積した過重による疲労骨折などを起こす事もあります。

ここでは、新たな選択肢として実臨床成績が蓄積されつつある究極の保存的治療「皮下脂肪由来の幹細胞を用いた整形外科疾患へ再生治療」について簡単に紹介します。


変形性関節症に対する再生治療(細胞移植治療)

国の定める委員会(特定認定再生医療等委員会)での認可並びに厚生労働省の認可受理を受けると本治療を提供出来ます。

当院でも2022年11月に非培養における慢性疼痛変形性膝関節症の認可を取得し、2024年10月に慢性疼痛(培養)と2025年3月に変形性関節症(培養)の認可を追加取得し、治療を提供してます。


【この治療の特徴】

① 基本的に全て日帰り手術である(必要時に1泊入院のみ)

② 手術時間は2~4時間と短時間である(麻酔時間は1時間弱)

③ 人工物を使わず自分の組織由来の細胞を用いるため拒絶反応を引き起こすリスクが低く、また、薬剤等も使用しないため副作用発現頻度も低い

④ 移植に必要な細胞を凍結保管しておくことにより複数回治療が可能である

国内外で臨床実績が多数報告され治療効果データも数多く蓄積され始めている

⑥ 傷口(皮膚切開部)は3~5mmと小さく患者さんの侵襲は低い

などであり、大きな手術を回避できる可能性があることです。


海外におけるスポーツ障害に対する再生治療の現状

2018年12月13-14日にミラノ(イタリア)にて「ICRS:International Cartilage Regeneration and Joint Preservation Society」が開催されました。全世界からこの領域のスペシャリスト医師(整形外科医)が集まり活発な症例検討や最新の医療技術を発表する最近注目され始めている研究会です。ここでのキャッチフレーズは「I am not ready for METAL」。つまり直訳すると、「私はまだ人工関節を入れたくない」であり、効果の高い保存的治療の重要性が議論され始めています。

また、ヨーロッパでは既にプロサッカー選手に対し外科的手術と細胞移植の併用療法で治療が施されており、ここにリハビリテーションを組み込む事により早期復帰を促す取り組みも検証されております。


リハビリテーションの重要性

最近、東京Dタワーホスピタルでは上記のごとく細胞移植後の効果増強への1つのキーワードとして「細胞移植後リハビリテーションの重要性」に注目しています。これは、適切な運動療法が確立されると幹細胞の動員促進並びに増強効果を期待できるため、幹細胞移植治療移植後リハビリテーションはとても重要です。


これからの再生医療と我々の使命

我が国では、2015年11月25日より世界に先駆けて「再生医療安全性確保法」が施行されました。

この新制度は、現在世界からも注目されており、また、再生医学研究並びに再生医療応用に対し大変大きな影響を及ぼしております。しかしながら、再生医療に伴う安全性や有効性問題、治療コストの適切化など様々な問題が発生しています。再生治療の将来の発展のためにも、我々は他施設の先生方と連携し、寿命の最後まで健康に過ごすことが出来る社会を目指し、さらなる検証を進めて参ります。


この記事を書いた人

岩畔 英樹

Hideki Iwaguro

再生医療
アドバイザリーボードメンバー


杏林大学医学部付属病院・循環器内科 入局
米国タフツ大学医学部付属 セイント・エリザベス
メディカルセンター 循環器内科 リサーチフェロー
東海大学医学部循環生理学 奨励研究
東海大学医学部再生医療科 助教
米国再生医療ベンチャー企業 再生医療臨床開発部本部長
医療法人・再生会・そばじまクリニック・再生医療 本部長

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