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医療コラム 放射線科

放射線基礎①

Author :東京Dタワーホスピタル アドバイザリーボードメンバー 石津 浩一

放射線のおはなし

前回、放射線画像診断と被曝の関係についてお話ししました。今回は少し基本に立ち返って放射線って何だろうといった、放射線の基礎中の基礎をお話してみたいと思います。数式など難しいことは抜きにして説明できればと思います。

日本は東日本大震災で未曽有の被害を受け、福島第一原子力発電所の事故のためにたくさんの方々が地元で生活できなくなりました。事故直後から様々な報道が飛び交いましたし、真実かどうかわからない情報や正しくない理解に基づいた記事も多かったように思います。同じような事故は二度と起きてはいけないのですが、自然災害や事故で自分自身が放射線被曝の危険と背中合わせになった時に、放射線と被曝について少し知っておくことで自分の身を守ることにつながるかもしれません。

放射線ってなんだろう?

まずは放射線の正体についてです。放射線は、目には見えませんが、私たちの身の回りにある「エネルギーの波」や「粒」のようなものです。前者は電磁波と呼ばれ、電子レンジが使う電波、レントゲン撮影に使うX線がありますし、太陽光(可視光)も電磁波の一つです。後者は粒子線と呼ばれアルファ線(ヘリウムの原子核)、ベータ線(電子)、陽子線(水素の原子核)などがあります。これらはすべて、物質を透過したり、物質に当たってエネルギーを与えたりする力を持っています。

放射能ってなんだろう?

放射能という言葉もよく耳にします。では放射能とは何でしょうか。
放射能とは放射線を出す能力のことです。この能力を持つ物質を「放射性物質」といいます。たとえばウランやプルトニウム、ラジウムなどがこれに当たります。また、このような放射線を出すことのできる元素を放射性同位元素と呼びます。放射能の強さは1秒間に放出される放射線の数で表されベクレル(Bq)という単位で表します。

混同されがちな放射線と放射能ですが両者は明確に異なります。
簡単にまとめると、

  ・放射線は当たると怖いもの

  ・放射性物質は放射線を出す物質

  ・放射能は放射性物質が1秒間に何本の放射線を出すのか

ということになります。ここでわかっていただきたいのは放射能=放射線ではないということです。
日常会話では「放射能って怖いよね」と話されそうではあるのですが、実際に怖いのは放射能ではなく放射線です。

電磁波と粒子線

先に放射線には電磁波と粒子線があると書きました。いずれも放射性同位元素から発生するものと装置によって人工的に作られるものがあります。
以下、医療で用いられるものからいくつかをピックアップして表にまとめてみました。

 電磁波粒子線
放射性同位元素から発生
 (自ら崩壊して放出)
γ線(ガンマ線)テクネチウム99m、タリウム201、ガリウム67などα線(アルファ線)ラジウム223、アクチニウム225など
β線(ベータ線)ストロンチウム89、ルテチウム177など
放射性同位元素以外から
 (人工的に生成)
X線(エックス線)
医療用レントゲン装置、
CT装置など
陽子線、重粒子線、電子線
加速器などで生成
中性子線 原子炉や加速器で生成
使用目的主に放射線画像診断主に放射線治療

一般に良く知られているのはX線を用いた放射線画像診断装置だと思います。胸部X線撮影、バリウムを飲んで撮影する胃透視、X線CTなどがあります。これらは電気仕掛けでX線管球からX線を出して使用します。これに対して放射性同位元素から出るγ(ガンマ)線を画像診断に使用するのが核医学と呼ばれる技術です。核医学に関しては別の機会にまたご紹介したいと思います。

X線とγ線

ここでX線とγ線は全く違うもののように思われがちですが、どちらも高いエネルギーをもつ電磁波で、波長や周波数、エネルギーに明確な違いはありません。つまり同じものなのですが、発生源(生成メカニズム)の違いでX線とγ線というように区別して呼ばれています。同じことは電子線とベータ線にも言えます。どちらも高速で飛ぶ電子の流れで同じものですが、人工的に作られると電子線、放射性同位元素から出てくるのがベータ線と呼ばれます。

ではX線や電子線に放射能はあるのでしょうか。X線発生装置や加速器などで人工的に放射線を生成する場合には放射能という言葉は使いません。発生装置の電源を入れれば放射線が発生しますが電源を切ればゼロになります。放射線を出すことができますが、その能力を放射能とは言いません。

放射性物質(放射性同位元素)があると、そこからずっと放射線が出続けます。ただし時間とともに1秒間に放出される放射線の数(放射能)が減ってきます。ちなみに放射能が半分になるまでの時間を半減期と言い、放射性同位元素ごとに半減期が違います。

放射線画像診断と放射線治療

上の表にも示しましたが、主として電磁波は画像診断に、粒子線は治療に使われています。

医療に使われる電磁波と粒子線の一番の違いは物質を透過する能力の違いです。X線やγ線は透過力が高く人間の体も通り抜けることができます。X線を体に当てると、一部は通り抜けますが、一部は体の中で吸収され減衰します。骨のように吸収率が高い組織ではたくさん減衰し、肺のように空気に近い組織は減衰が少なくなります。このように体の組成に従って減弱したX線が体の反対側から出てきます。それを検出器で受け取って画像にします。

では粒子線はなぜ主に治療に使われるのでしょうか。粒子線は中性子線を除いて透過性が低く、体を通り抜けにくい、つまり照射部位で吸収されやすい放射線です。そのために粒子線が持つエネルギーを照射部位に効率よく放出でき、このエネルギーで病変部をたたくことができます。

透過性の高いX線でも透過性の低い粒子線でも、放射線に当たればそれは被曝です。しかし体内で消滅し吸収されるエネルギーが少なければ健康被害は起きにくいことになります。粒子線も病変部だけに照射することで健常部の障害を減らすことができます。画像診断と放射線治療ではそれぞれの目的に応じた放射線を選択し、様々な技術を用いて臨床応用しています。

今回は放射線の基礎知識第1回目として、放射線と放射能、電磁波と粒子線などについてお話ししました。

この記事を書いた人

石津 浩一

Koichi Ishizu

アドバイザリーボードメンバー
京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 准教授


京都大学医学部付属病院核医学科 医員
Denmark Aarhus University PET Centerに留学
県西部浜松医療センター附属診療所 先端医療技術センター 副医長
福井医科大学高エネルギー医学研究センター リサーチ・アソシエイト
京都大学医学部附属病院放射線部 助手
京都大学大学院医学研究科 放射線医学講座(画像診断学・核医学) 講師
京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 准教授

専門
日本医学放射線学会会員 放射線科専門医
日本核医学会会員 核医学認定医、PET核医学認定医
産業医 認定産業医

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