Column
放射線基礎③ 自然被曝について
Author :アドバイザリーボードメンバー 石津浩一

前回、被曝量のお話しをしました。次にどの程度の被曝だと危険なのか、身体に影響を及ぼすのかをお話ししたいのですが、そのことを理解していただくために、まず自然放射線について説明したいと思います。
私たちのまわりには、もともと自然界からの放射線が存在していて「自然放射線」といいます。つまり、私たちは日常生活の中で知らないうちに放射線を浴びながら生きています。自然放射線と聞くと「宇宙線」がまず頭に浮かぶと思います。宇宙線ももちろん自然放射線の一つですが、それ以外にもあって、大きく4つの種類があります。ひとつづつ簡単に説明していきます。
宇宙線
宇宙から常に降り注ぐ放射線です。銀河系宇宙線と言われる超新星爆発などの天体現象で加速された粒子線で、宇宙線被曝の主要な原因です。主に陽子(水素原子核)やアルファ粒子(ヘリウム原子核)だとされています。この銀河系宇宙線は非常に高いエネルギーを持ち、地球の磁場や大気では完全に遮蔽できず、大気中でミュー粒子や中性子に変化して地上にまで達します。太陽の活動でも宇宙線は発生しますが(太陽宇宙線)、エネルギーが低いためほとんど地表まで到達しません。
宇宙線による被曝は標高が高い場所や飛行機内では大気による遮蔽が減り被曝量が増えます。国際線の飛行機の巡航高度である高度1万メートルでは地上の100倍から300倍程度の被曝になるとされ、東京-ニューヨーク往復で約0.1mSvの被曝になります。
地殻線(大地放射線)
岩石や土壌に含まれるウラン-238、トリウム-232、カリウム-40などから出てくる放射線で、人体に影響を及ぼすのはガンマ線がほとんどです。アルファ線やベータ線も発生しているのですが石などの内部で吸収されてしまい人体にまではほとんど届きません。足元の地面から出てくるイメージが強いですが、マンション住まいで職場もビル内が多い都会暮らしではコンクリートなどに囲まれてほとんどの時間を過ごしているため、コンクリートや建材からの被曝(屋内被曝)がほとんどだと考えられています。
中国の陽江(ヤンジャン)ではトリウムが、イランのラムサールではラジウムが土壌に高濃度に含まれており場所によっては、この大地や建物からの被曝が年間数十mSvに達するところもあるとされています。ちなみに陽江やラムサールほどではありませんが、香港などの花崗岩地質の地域では他の地域より被曝が多いと言われています。日本でも西日本は花崗岩が東日本より多いので屋内被曝は少し多めです。
大気(吸入摂取)
大気中にはラドン-222という放射性の気体が含まれています。無色・無臭・科学的に不活性な希ガスで、地中に含まれるウラン-238から崩壊連鎖を経て生成され空気中に放出されます。
ラドンそのものは吸い込んでも比較的短時間で呼気から吐き出されるため内部被曝の影響は少ないとされています。しかし、ラドン-222が崩壊するとポロニウム-218、鉛-214、ビスマス-214などの短寿命の金属の放射性微粒子(固体)が生じます。これらは空気中の浮遊粒子やエアロゾルに付着して、呼吸によって肺の気道や肺胞壁に沈着します。その結果、特にポロニウムから発生するα線による被曝が生じ、結果的に肺癌のリスクを増加させます。
このラドンによる被曝は屋外より屋内で高くなります。特に密閉性の高い現代の住宅では地盤や建材から放出されたラドンガスが屋内に蓄積しやすいためです。
ちなみに鳥取県の三朝温泉はラドン温泉として有名ですが、1時間入浴しても数µSv(1µSvは1mSvの1000分の1)程度とされています。
食物・体内の放射線(経口摂取)
食物を通じて体内に取り込まれ内部被曝を引き起こす放射性物質の一つにカリウム-40があります。カリウムは細胞機能、神経伝達、体液バランスの維持に不可欠な必須元素です。人体には体重1kgあたり2gから2.5g存在しています。天然のカリウムはほとんどが放射線を出さない元素ですが、そのうち約0.012%が放射性のカリウム-40でβ線やγ線を放出します。カリウムとは別に経口摂取による放射性同位元素の取り込みで実効線量が高いものとして鉛-210やポロニウム-210が知られています。これらは摂取量は少ないのですがアルファ線を出すため身体に与える実効線量としては高いものになります。
ちなみにカリウム含有量の多い食事にするとカリウム-40による被曝は増えるのでしょうか。体内のカリウム量は腎臓によって調整されていて体内のカリウム量は一定に保たれています。そして自然界のカリウム中のカリウム-40の割合も変化しませんので体内のカリウム-40の量は食事の内容にかかわらず一定で被曝も変わりません。
以上4種類の自然放射線を説明ました。宇宙線と地殻線(大地放射線)は外部被曝で、吸入摂取や経口摂取で体内に取り込まれた放射性同位元素からの被曝は内部被曝に分類されます。日本では1年間の自然放射線の被曝量は実効線量で約2.1mSvだとされています。その内訳を表で示します。

今回は自然放射線についてお話ししました。次回はもう少し自然放射線の話を掘り下げて、どれくらい被曝すると危ないのかのお話しにつなげていけたらと思います。
この記事を書いた人
石津 浩一
Koichi Ishizu
アドバイザリーボードメンバー
京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 准教授
京都大学医学部付属病院核医学科 医員
Denmark Aarhus University PET Centerに留学
県西部浜松医療センター附属診療所 先端医療技術センター 副医長
福井医科大学高エネルギー医学研究センター リサーチ・アソシエイト
京都大学医学部附属病院放射線部 助手
京都大学大学院医学研究科 放射線医学講座(画像診断学・核医学) 講師
京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 准教授
専門
日本医学放射線学会会員 放射線科専門医
日本核医学会会員 核医学認定医、PET核医学認定医
産業医 認定産業医

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