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医療コラム 心臓血管外科

低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)とは? ~身体への負担が少ない小さな傷で行う新しい冠動脈バイパス手術~

Author :東京Dタワーホスピタル 心臓血管外科 特任部長 菊地慶太


心臓の表面にある冠動脈という血管が狭くなったり詰まったりすると、狭心症や心筋梗塞といった命に関わる病気を引き起こします。このような冠動脈疾患に対して、「冠動脈バイパス術(CABG)」は、血流を回復させる確実な治療法として長年にわたり行われてきました。

従来のCABGでは、胸の中央にある胸骨を縦に切り開く「胸骨正中切開」が必要でした。これは信頼性の高い手術方法ですが、術後に胸骨の感染(縦隔炎)などの合併症を引き起こすことがあります。特に糖尿病をお持ちの方は感染リスクが高く、治療に長期間を要する場合もあります。また、術後しばらくは車の運転や仕事への復帰にも制限が出ることがあります。

こうした負担を減らす新しい選択肢として、当院が行っているのが左胸の小さな傷で手術を行う「低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)」です。


MICS CABGの特長

MICS CABG(Minimally Invasive Coronary Artery Bypass Grafting)は、胸骨を切らずに左胸部を数センチ切開し、心臓にアプローチするバイパス手術です。小さな傷から心臓に到達し、狭窄した冠動脈に対して新しく血液がよく流れる道を作ります。

従来は前下行枝に限った限定的なバイパス手術(MIDCAB)が主流でしたが、当院では、両側内胸動脈や右胃大網動脈、橈骨動脈などを組み合わせることで、従来のCABGと同等の多枝バイパスを低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)として実現しています。



MICS CABGのメリット

  • 胸骨を切らないため、術後の痛み合併症が少ない
  • 入院期間は通常5~7日、回復が早く社会復帰もスムーズ
  • 車の運転仕事復帰までの時間短縮
  • 輸血必要性が少ない
  • ● 整容性に優れ、傷跡が目立ちにくい
  • 人工心肺を使用しないオフポンプ手術により、脳梗塞リスクが低減
  • ● 上行大動脈を操作せずに行うことで、さらなる安全性を確保


さらに、長期の予後を改善する動脈グラフトを積極的に使用しており、長期的なグラフト開存率の向上にも取り組んでいます。

MICS CABGの方法

MICS CABGは左の胸を約8cm切開して肋骨の間からすべての手術を行います。手術には特殊な超音波メスを用いて両側内胸動脈や右胃大網動脈、橈骨動脈、下肢の静脈を採取します。これらの血管を用いて冠動脈へ新しく血液の流れる道を作成いたします。

MICS CABGでは人工心肺は基本的に使いません、いわゆるオフポンプCABGという方法です。これは心臓が動いた状態でバイパスを行います。また最近ではMICS CABGであっても上行大動脈を触らずに冠動脈へのバイパス手術も数多く手掛けており、より患者様の体への負担の少ない方法も行っております。

もちろんMICS CABGにおいても手術の質が一番大切です。当院では両側内胸動脈を用いたMICS CABGを数多く手掛け、国内外で手術指導を数多く行っているMICS CABGの第一人者である菊地慶太医師が手術を行います。

このように当院で行うMICS CABGは低侵襲でありながら、これまでの冠動脈バイパス術と同等の効果が期待できる極めて優れた方法です。


当院の体制と実績

当院では、MICS CABGに精通した経験豊富な心臓外科医である菊地慶太医師が手術を担当し、循環器内科との連携のもと、患者さん一人ひとりに最適な治療方法をご提案しています。カテーテル治療(PCI)が適している場合はそちらを選択するなど、常に中立かつ柔軟な治療戦略を取っています。

また、外科と内科の技術を組み合わせた「ハイブリッド治療」も導入しており、より低侵襲かつ効果的な治療を提供しています。

教育・研修機関としての役割

東京Dタワーホスピタルは、国内外の医療機関に向けてMICS CABGの指導・教育を行っている専門的な医師が手術を行う数少ない施設です。私たちは、この先進的な技術を多くの医師に伝えるとともに、より多くの患者さんにその恩恵が届くことを目指しています。

手術と術後の流れ

  • ● 手術は全身麻酔下で行い、手術中は心臓麻酔専門の麻酔科医をはじめ手術室看護師、臨床工学技士と連携して手術を行います。
  • ● 原則として人工心肺は使わず、心臓が動いたままで行うオフポンプ手術です。
  • ● 術後は集中治療室(ICU)で術後管理を行いICU材質時から心臓術後リハビリを開始します。大きな問題がなければ翌日から病棟に戻ってさらにリハビリをすすめていきます。
  • ● 通常、術後5~7日で退院可能で、退院後も早期に日常生活に復帰していただけます。

最後に

MICS CABGは、患者さんの心身の負担を軽減しながら、従来の冠動脈バイパス術と同等の効果が期待できる革新的な手術法です。私たちは、これまでの豊富な経験をもとに、確かな技術と万全のサポートをハートチーム一丸となって、患者さんに最適な医療をお届けいたします。

ご不明な点やご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
私たちチーム一同、皆様のお力になれることを心より願っております。


この記事を書いた人

菊地 慶太

Keita Kikuchi

心臓血管外科
低侵襲冠動脈バイパス術(MICS CABG)特任部長


聖マリアンナ医科大学 心臓血管外科 入局
島根大学医学部 循環器・消化器総合外科学 講師
順天堂大学心臓血管外科 准教授
仙台厚生病院 心臓血管外科 部長
大和成和病院 心臓血管外科 部長
武漢アジア心臓病医院 心臓外科顧問
一宮西病院 心臓血管外科 統括部長
豊見城中央病院 心臓血管外科 スーパーバイザー
友愛医療センター(旧 豊見城中央病院) スーパーバイザー
東京ベイ・浦安市川医療センター Coronary program director

EACTS (Active member)
ISMICS (Board of Director, Active member)
ASCVTS (Active member)
MICS club (International faculty)
日本外科学会 専門医、指導医
心臓血管外科学会 評議員、修練指導者、国際会員
日本冠動脈外科学会 評議員、幹事
日本冠疾患学会 評議員、FJCA(特別正会員)
日本低侵襲心臓手術学会 世話人、MICS指導医
日本胸部外科学会 修練指導者

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