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大動脈瘤とは? 破裂のリスクと早期治療の重要性
Author :東京Dタワーホスピタル 心臓血管外科部長 木内 竜太

目次
大動脈瘤とは?
大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう:Aortic Aneurysm)とは、心臓から全身に血液を送る大動脈の一部がこぶ状に膨らんでしまう疾患です。この膨らみは動脈の壁が弱くなることで生じ、進行すると破裂し、命に関わる重篤な出血を引き起こす可能性があります。
大動脈瘤の原因、形、大きくなるスピードなどから、どの程度の大きさになったら破裂しそうなのかは、長年の研究によって明らかにされてきています。
破裂してしまった後におこなう治療の成績は大変悪く、破裂前の病気の発見・治療が大切です。
また、大動脈瘤が自然に小さくなるようなことはありません。
大動脈瘤の種類
大動脈瘤は発生する部位によって分類されます。(fig.1:大動脈瘤 a:胸部、b:腹部)

腹部大動脈瘤(TAA、Thoracic Aortic Aneurysm) | 胸の中にある大動脈に発生。心臓に近いため、破裂すると重篤。 |
腹部大動脈瘤(AAA、Abdominal Aortic Aneurysm) | 腹部の大動脈に発生。最も頻度が高いタイプ。 |
胸腹部大動脈瘤(TAAA、ThoracoAbdominal Aortic Aneurysum) | 胸部から腹部にかけて連続的に拡張しているもの。 |
また、瘤の形状により以下のようにも分類されます。(fig2:瘤の形態 a:紡錘状瘤、b:嚢状瘤)

・紡錘状瘤(ふくらんだバルーン状)
・嚢状瘤(局所的に膨らむポケット状)
嚢状瘤はその形状から、紡錘状瘤よりも破裂の確率が高いとされています。
症状:無症状が多く、破裂時が初発となることも
大動脈瘤の多くは無症状です。これが「沈黙の病(Silent killer)」とも呼ばれる所以であり、破裂するまで気付かれないケースも少なくありません。破裂した場合は激しい痛みを伴い(胸痛、背部痛、腹痛、腰痛など)、高確率で死に至りますが、それまでは自覚症状がないことが一般的です。ただし、動脈瘤の位置によっては、以下のような自覚症状を認めることがあります。
胸部 | 瘤で喉の神経が圧迫されることで声がかすれたり(嗄声)、むせたり、食道が圧迫されることで飲み込みにくさを感じる原因となります。 |
腹部 | 比較的痩せている方は、おへその辺りにふくらみや拍動を感じることがあります。また、食欲不振や便秘であったり、下肢の浮腫などを自覚される方もいます。 |
原因と危険因子
大動脈瘤の発生には複数の要因が関与しています。
- 動脈硬化(もっとも一般的な原因)
- 高血圧
- 喫煙
- 加齢(特に65歳以上)
- 遺伝要因(Marfan症候群など)
- 外傷や感染
大半の大動脈瘤は、動脈硬化が原因で発生します。動脈硬化の原因は高血圧、喫煙、糖尿病、高脂血症であり、近年は睡眠時無呼吸症候群も関係があることも分かってきました。
また先天性の血管の起始異常により動脈瘤が発生したり、先天性の結合組織病(Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群など)により動脈が瘤化する場合があります。
その他、血管炎や感染症、外傷が原因となって大動脈の壁が劣化し、結果としてそこに動脈瘤ができることもあります。
検査方法
腹部超音波(エコー) | 腹部大動脈瘤のスクリーニングに有効 |
CT検査 | 大動脈の拡張の範囲・大きさを詳細に評価 |
MRI | CTの代替として使用 |
胸部X線 | 大動脈の陰影から推察できる場合も |
症状に乏しいために、健康診断や他の病気の検査中に偶然発見されることも少なくありません。
そういった場合には、ぜひ専門医(心臓血管外科や循環器内科)を受診し、精密検査を受けてください。
治療方法:人工血管置換術 vs ステントグラフト内挿術
動脈瘤があまり大きくなく、破裂の可能性がまだ低い場合には、内服薬を用いた血圧・脂質の管理や、禁煙などの生活改善をおこない、瘤の拡大を遅らせます。しかしながら、薬物治療は根治的な治療ではないため、瘤が徐々に増大し大きさが一定以上になってしまったら、手術をおこなわなければなりません。
大動脈瘤の手術方法には大きく分けて、人工血管置換術とステントグラフト内挿術の2つの方法があり、瘤の解剖学的位置や患者さんの全身状態により選択されます。
外科的治療
① 人工血管置換術 (開胸、開腹手術)
大動脈瘤を切除して、そのかわりに人工血管を縫い付ける手術です。(fig.3:人工血管 a:胸部用4分枝型、b:腹部用Y型)

50年前からおこなわれている長い歴史があり、根治性が高いことが長所です。一度治療すれば、再発などのトラブルがほとんどありません。(fig.4:腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術 a:イメージ、b:術前CT、c:術後CT)

胸部や胸腹部大動脈瘤では、人工心肺という機械を用いて臓器の血流を維持しながらおこないます。動脈瘤が脳へ行く動脈や脊髄への動脈、他の内臓への動脈などに及んでいるときには、それらの動脈も人工血管につないで再建します。
大動脈瘤の手術は、心臓血管外科医がおこなう中でも大きな手術の一つです。特に胸部大動脈瘤の人工血管置換術において、一般的には手術の時、患者さんの体を20℃の超低体温状態にしますが、この方法では脳梗塞や感染症、肺炎などの合併症リスクがあり、血も止まりにくく時間がかかり、死亡率も高い状態でした。
このため、我々は20℃に冷やすのを止めて、 30℃程度の軽度低体温で手術を施行しています。現在、ほとんどの胸部大動脈の手術をこの方法でおこなっております。人工血管の縫合方法も出血しにくい方法を用いることにより、3時間程度ですべての手術が終わります。輸血なしで手術をおこなうことも可能であるため、輸血の副作用を生じません。
② ステントグラフト内挿術 (カテーテル手術:TEVAR、EVAR)
ステントグラフトとは、「ステント」と言われるバネ状の金属骨格と、それをカバーする人工血管「グラフト」を組み合わせたものです。(fig.5: 胸部用ステントグラフト)

それをカテーテルの中に格納し、足の付け根の動脈から瘤になった大動脈の内側に誘導し、ステントグラフトをカテーテルの中から解放・留置します。すると、金属バネ(ステント)の力でグラフトが瘤の前後の正常な大動脈に密着し、血液はステントグラフト内を通り、瘤内には血流がなくなります。つまり、瘤壁には圧力がかからない状態となり、破裂が防止されます。(fig.6:ステントグラフト内挿術イメージ、fig.7:胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術 a:術前CT、b:術後CT)


胸や腹を開かずに小さな傷でおこなえるため、身体への負担が軽減されることが長所です。
table1:人工血管置換術とステントグラフト内挿術との比較
特徴 | 人工血管置換術 | ステントグラフト内挿術 |
---|---|---|
侵襲性 | 高い(開胸・開腹が必要) | 低い |
入院期間 | 長くなりやすい(10日間程) | 短い(1週間以内) |
耐久性 | 長期安定 | やや劣る |
再治療率 | 低い | やや高 |
予防と早期発見の重要性
大動脈瘤は定期的な検診によって早期発見・早期治療が可能です。
予防法:
- 高血圧・脂質異常の管理
- 禁煙
- 運動・バランスの良い食事
- 家族歴がある場合は積極的な検査
スクリーニングの推奨:
- 65歳以上の男性で喫煙歴がある人
- 動脈硬化性疾患の既往がある人
少しでも気になる症状がある方は、当院までご相談ください。
まとめ
大動脈瘤は進行するまで気づかれにくい「静かな病」です。しかしながら、破裂した場合の死亡率は非常に高く、予防・早期発見・適切な治療が重要です。定期健診や画像検査を通じて、無症状の段階で発見・対応することが命を守る鍵となります。
当院では人工血管置換術、ステントグラフト内挿術、どちらの治療についても精通した経験豊富な専門医が在籍しており、また大動脈瘤の部位や患者さんの全身状態によっては、両方を組み合わせたハイブリッド治療もおこなっております。(fig.8:胸部大動脈瘤に対するハイブリッド治療 a:イメージ、 b:術前CT、c:術後CT)

年齢や併存症が多いために手術治療をあきらめていた患者さんに対しても、できるだけ体に負担のかからない低侵襲な治療法を御提案させて頂きますので、是非お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人
木内 竜太
Ryuta Kiuchi
専門分野 成人心臓血管外科全般
心臓血管外科部長の木内と申します。医学部を卒業後、現ニューハート・ワタナベ国際病院総長の渡邊剛先生が主宰する金沢大学心肺・総合外科に入局し、大学や関連病院にて研鑽を積み、現在に至ります。
今までの豊富な経験から、同じ疾患でも患者さんそれぞれの年齢、体力、病状等に応じて、最適な術式・アプローチをご提案させていただきます。
大切な心臓は一つしかありません。治療の事でお悩みならば、まずは当院にご相談ください。

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