コラム

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医療コラム 放射線科

放射線基礎② 被曝量について

Author :アドバイザリーボードメンバー 石津浩一

被曝と被爆

日本語の被ばくの「ばく」には漢字が二つあります。放射線に当たる、放射線を浴びるという意味の「被曝」と、爆撃によって被害を受けることを示す「被爆」です。爆撃の中でも特に原子爆弾や水素爆弾による被害を差すことが多く、広島や長崎で原爆に被爆した方々を被爆者と呼ぶこともご存じかと思います。このように曝と爆で漢字が違います。ただし、原爆に被爆した時には放射線にも被曝しているためこの二つは混同しやすく、最近は「被ばく」と表記することが多くなっています。余談ですが、医学部学生が放射線科の試験で「放射線被爆」と書いたら減点です。

外部被曝と内部被曝

外部被曝(外被曝)とは体外から放射線を受けることで、内部被曝(内被曝)とは体内に入り込んだ放射性物質から出た放射線に被曝することを言います。放射線を発するものが体外にあるか、体内にあるかの違いです。

外部被曝の原因としては、宇宙線、地表や建材からの放射線、CTなどの放射線発生装置などが含まれます。内部被曝としては食事、呼吸による放射性物質の取り込みや医療における放射性同位元素の体内投与などが原因となります。

環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和6年度版)」

被曝量と吸収線量(Gy:グレイ)

放射線診断でもX線を使うCT検査などでは実際にどれくらいの被曝があったか毎回の検査で記録しないといけません。ところがこの「どのくらいの被曝か」を表すのが結構難しいのです。

放射線を出す側の強さとしてベクレル(Bq)という単位があることはお話ししました。これは放射性同位元素が1秒間に何回放射線を出すことができるかを示します。では同じBq数であれば被曝も同じかというとこれが違うんです。出てくる放射線の種類もいろいろありますし、同じガンマ線でも持っているエネルギーが違うと与えるエネルギーも変わってきます。

では放射線を受ける側の被曝量はどう表されるのでしょうか。物理的には割とシンプルな単位で表します。放射線が当たった物質1kgあたりに何ジュール(J)のエネルギーが吸収されたかをグレイ(Gy)と呼び、これが被曝量の基本的な量で吸収線量という名前が付いています。

CT装置や放射線治療装置では機械的に放射線を作り出していますので、どれだけの放射線を放出したか(当てたか)がコントロールでき、吸収線量も算出可能です。放射性同位元素の場合にも、どのような放射線が出ていて何Bqあるのか、その物質からどれくらい離れた位置でどのくらいの時間被曝していたかがわかればGyの計算ができます。

ここで注意すべきこととして、当てた放射線のエネルギーのすべてが物質に吸収されるわけではありません。放射線は物質を透過します。そのまま通り抜けてしまった放射線は、体や物質になんら影響を与えません。吸収線量(Gy)は、透過せずに体内でエネルギーを放出し、物質に吸収された分だけを対象とする量です。

吸収線量と実効線量(Sv:シーベルト)

被曝したエネルギーは吸収線量Gyという単位で表しますが、その被曝によって人体にどの程度の影響があるかが知りたいとなると途端にややこしくなります。

まず放射線の違いによって臓器(組織)に与える影響が違います。たとえばガンマ線1Gyの被曝とアルファ線1Gyの被曝では組織に与える影響はアルファ線の方が20倍大きいとされます。この放射線の種類による影響の違いを考慮した被曝線量のことを等価線量と言ってシーベルト(Sv)で表します。

また、放射線感受性と言いますが同じ放射線の被曝に対して強い障害を示す組織とあまり障害を起こさない組織があります。この各組織の放射線感受性を加味して全身の放射線被ばくによる影響度を数値化したものを実効線量と呼び、単位は同じくシーベルト(Sv)で表します。

環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和6年度版)」

なんだかややこしい話ですよね。ですが、知っておいていただきたいのは最後の実効線量(Sv)だけです。原発事故の時にニュースで取り上げられていたのも実効線量です。

ニュースではミリシーベルト毎時(mSv/h)という単位で表示されていたかと思います。ミリは1000分の1ということです。

原発事故では放射性同位元素が広範囲にばらまかれてしまいました。地表に残留する放射性同位元素から放射線が出てきますが、そこに2時間いて受ける被曝量が1時間いた時の2倍になるのはお分かりいただけると思います。つまりニュースでやっていたのはある地点に1時間いるとどれくらい被曝するか、しかもその物理的なエネルギーではなくて全身にどの程度の影響があるのか、その影響量とでも言うべき数値(実効線量)が示されていたわけです。 では、1mSvの被曝で起きる人体への影響というのはどのようなものなのでしょうか。何mSv浴びると危ないのでしょうか。

そのあたりを次回、お話ししたいと思います。

この記事を書いた人

石津 浩一

Koichi Ishizu

アドバイザリーボードメンバー
京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 准教授


京都大学医学部付属病院核医学科 医員
Denmark Aarhus University PET Centerに留学
県西部浜松医療センター附属診療所 先端医療技術センター 副医長
福井医科大学高エネルギー医学研究センター リサーチ・アソシエイト
京都大学医学部附属病院放射線部 助手
京都大学大学院医学研究科 放射線医学講座(画像診断学・核医学) 講師
京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 准教授

専門
日本医学放射線学会会員 放射線科専門医
日本核医学会会員 核医学認定医、PET核医学認定医
産業医 認定産業医

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